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※※※ 情報交換が終わり一時間と少し。俺と古鉄は転送石を使い転移していた。 「さぁて、どこについたかな」降りたった俺は周囲を見渡しながら言った 「魔王の城」冷ややかな言葉だった。 「…いや、それはわかる」 「なら聞かない、というかわたしは外を見て場所がわかって…あなたにむかつきました」その目線の先は俺の後ろの窓に向かっており…その意味を知った。 「結晶の森…」 「そう。つまり…最初から魔王ウィネアから逃げることはできなかったと…」 「…えっと…すみません」なぜか冷たい視線にさらされる俺を救ったのは憎らしい敵の声だった。 「そんな、彼を攻めないで!ここに私の居城があることは魔王でも知ってる人は少ないのよ。」俺をかばうような言葉を吐く魔王…だが今となっては裏にある感情が見え見えだった。 「腹黒い性格はもう隠さなくていいの?」 「あら?隠せてないかしら?うふふ、でもしょうがないわよね…だって私という存在が生まれたわけをを果たせる瞬間がきたのですから…」そういって静かに顔を上げたその顔は歓喜に歪んでいた。 「さ…て、それであなた達の返答は?」その言葉は騙し合いの合図 「…あの魔法は渡す。だからこのはちゃんを返せ。」懐からあの魔法を込めた結晶を俺は取り出す。 「うん。ちゃんと紫色に染まって…込められているのはあの魔法みたいね」 「っ…」古鉄が驚きに息を呑む。ここまでは俺の予想通りだったからだ。 「でも…あーあやっぱり返さなきゃだめか…このはちゃん。」 「はい…お母様。」音もなくこのはちゃんが現れる。だが、その目には何の光も灯らない…人形のようだ。 「あちらに歩いて行きなさい…」 「はい…」その命令に従い、音もなく歩いてくるこのはちゃん…だが 「待って。意識は?」 「どうして?返したわよ?意識の話なんて聞いてないわ」古鉄の叫びに対するのは悪いやつのおきまりのセリフ…そして 「契約成立!結晶よ…きなさい」このはちゃんが俺の目の前に立った瞬間、“契約成立”という言葉によって、俺の手の中にあった記憶結晶がウィネスの手に収まっていた。 「はは…手に入れた。とうとう手に入れた…これでわたしの世界が始められる…さぁ“暴走する奇跡”よ!わたしのものに…」哄笑をあげ記憶結晶を掲げたウィネスが動きを止めた。 「ちっ、気づいたか」 「貴様…知っていたの?」その目は今までのバカにするような目ではなかった、そう…敵を見る目に変わっていた。 「記憶結晶には二つの使い方がある。一つは記憶や魔法を込めることで、込めたものの中からその記憶や魔法がなくなり、解放したものはその記憶や魔法を得ると言うもの…もう一つは…込める所までは同じだが、その魔法は」 「砕くことでしか使えず、その魔法は消える…」その暗く沈んだ声とともに放たれたのは凶悪な殺気だった。だがそれもすぐに霧散する。 「ふぅ…いいわ、一度しか使えなくたって…わたしの世界を作れることに変わりはない…でも、ペナルティよ…わたしの世界にあなたは創ってあげない…だから…そこで終わりの瞬間を眺めていなさい 」そう言って魔王は、世界を滅ぼす詠を詠み始めた。 -それでは始めましょう あらたな世界の創造を - 詠が響き始めたと同時に俺は静かに目をつぶった…本当の賭はここからだからだ。 俺は暴走するように収縮する心臓を押さえ…息を吸った。 ※※※ 「さて…始まったみたいね」 「なにが?」私の問いに母は答えず、頭を撫でてきた。 「このはちゃん…あなたにとって大事な瞬間よ。目を閉じて耳をすましなさい」その言葉に従い耳をすます… (このはちゃん、聞こえるかい?) 「え?」耳に届いたのはファルツの声だった。 (まぁ…返事はできないだろうから聞こえてると仮定して続けるよ…) ファルツの言葉は続く…そして瞼の裏には私に近づいてくるファルツの姿が見えた。 「これは…」 「やっぱり、愛の力は偉大よねぇ…私の時もそうだったけど」 (えっと、こういうときなんて言えばいいのかな…そうだな、単刀直入に言うよ)吸血鬼特有の白い肌が真っ赤に染まっていた。たぶん私も同じ位紅くなってると思う。その真っ赤なファルツが“私”の肩に手を置いた。 (俺はこのはちゃんの事が好きだ!) その言葉を聞いて私はすごく嬉しかった、だけど悔しかった…それを私じゃない“私”が聞いていることも、ファルツに飛びついていけないことも。 「私も…私も好きなの、大好きなの…」この思いを伝えたくてたまらなかった。どうして、私はここにいなきゃいけないのか…あれ?何で私、諦めていたの? 「私はファルツと話したい。触れたい。一緒にいたい。」世界を救うとかそんな大層なことじゃない…私はファルツと一分一秒でも一緒にいたいだけなんだ。 「ふふ、やっとわがままになった。はいはい、ママさんはいつだってどんな貴方でも味方よ。そう貴方だけのね。だから、さっさと好きな男にくっついてきなさい。」その笑みはとても綺麗だった。そしてやっと気づいた。 「うん…お母さん…さよなら」 (私は“私”も自分だと思ってた…でも違う…ファルツも古鉄もお母さんも、“私”に少しもあげたりしたくない…なんだ、私すごい我儘だ…) 「だから、私の体…返してもらう!」その決意とともに私は今の姿になっていた。そして、私から吹き出すプラーナは世界を染め上げた。そして私は、とりあえずキスをしようとしているファルツを押し止めた。 「ファルツ…なんで“私”にキスしようてしてるの?」 「え…いや…このはちゃんを戻すために必要かな…と…ほらやっぱりお姫様の目覚めはキスかな…なんて」しどろもどろになるファルツを見て、私は微笑んだ。 「もう大丈夫。あと、まだ私は操られてる振りをするね。それで…」その続きをしゃべることはできなかった。 -火は世界に力をもたらし、闇を払う- 私の体から溢れ出た紅いプラーナ。 「ふふふ、これで六つあと一つで世界は私のものに…」ウィネスの体から溢れる白・青・黒・灰・金の5つの色をしたプラーナ。 そして、私からでる紅、足りないのは風の属性を示す緑のプラーナだけ…この魔王がこの魔法を完成するとき世界の再創造が行われる、その最後の力を私は持っていた、だけど…私から溢れるこの紅いプラーナは私のものではなかった。 「これで終わり」 -風は世界を動かす歯車となる そして世界は変わる- その言葉とともに記憶結晶が割られる…だけど、それだけだった。世界は滅びもせず、再生もされない…そう、失敗だった。 「…どういうこと?どうしてこのはちゃんから風の力が出てないの?火は出たじゃない!?」狼狽する魔王。だが、私達に原因を答えることはできなかった、だって私たちもわからないから。いや、ファルツはある程度なら推測しているかもしれない。でも・・・辺りに響いた魔王と同じ声が答えを言った。 「簡単よ…このはちゃんはもう貴方から解放されているの。だから、あの力はわたしのもの。私は火の力しか持ってないもの風の力は出せないわね。だから七つの属性を必要とする“望み見る幻”は無駄に終わるのは当たり前…ああ、そうそう、あの“暴走する奇跡”はわたしが人として復活するために使わせてもらったわ。そこは元が同じ存在であったことの強みよね」そう…そこに立っていたのは初音お母さんだった。 「う、いね…」 「お母さん?へ?え?」 「「お母さん!?」」 「はーい、ママさん復活でーす。」 4者4様の驚愕に手を上げて答えるその女性は、幻でも魂だけでもない、肉体を持った初音お母さんだった。 「掛け金が“わたし”な賭には全部成功したみたいね。」にこやかな笑みを浮かべる母を見て、私は微妙な気分だった。さっきの別れは何だったんだろう。だけど、それ以上の衝撃を受けていたのは対峙する魔王だった。 「そう…そういうこと…あなたがすべて裏で糸を引いていたの」 「まぁ、いくつかはね。でも、この結果をもたらしたのは愛よ、愛」勝ち誇ったようにお母さんは言う。正直恥ずかしい…だけど否定をする気は私達にはなかった。 「なにが…なにが愛よ。貴方が愛し、愛された男は消えたわよ?その愛が原因で」 「そうね…あの」 「私が世界を創造したら貴方もあの男も蘇らせてあげようと思ってたのよ。世界結界なんかない、過酷な運命を背負わない世界で!なのに…なんで…」その言葉は嘆きだった。身勝手な…そう身勝手な思い。だけどそこにはお母さんへの愛を確かに感じた。だけど… 「もう…いい…なんでわたしは貴方達は救おうだなんて思っていたのかしら…こんなバカ達を」次の瞬間、気配が180度変わった。魔王に流れ込む魔力、そして溢れ出す圧倒的な障気が世界を紅く染めあげた。 「さっきまでと強さが…くそっ」 「違う…古鉄っ」 「はい!あるじ様」とっさに放った、古鉄の銃弾とファルツの闇は飲み込まれた。 「「なっ」」 「今は無駄よ…あの本体の解放中は、すべての攻撃がプラーナとなって吸収される」 「本体?そんな馬鹿な!?ここはラビリンスシティ、裏界よりは強い力を出せますが、本体が来ることはできないはず」ファルツが言っているとおり、魔王は裏界から出てこれないはず…だけど、ずっと引っかかってる点があった。それは先ほどの光景・・・なぜ、一つの体で5つの属性を使えていたのか? 「さて…どこから説明すべきかしら…そうね…簡単に言うなら、ウィネスは写し身という着ぐるみを本体が着ているの。」その疑問はこの言葉で理解した。
うむむ・・・そろそろクライマックスなんだが・・・とりあえず、お母さんは自分の趣味!
「うふふ…それでねファルツ様…あなたの望みはなんですか?」そう言って魔王はこのはちゃんの頬にキスをした。
ミドルフェイズ5過去の扉
そして始まる、世界を守護するものとして働く日々…そして、私は彼と再会を果たす。彼は…ファルツは私の事をどう思ってるのだろうか。
「望み…この限定された状況でどの口がほざく」
「あら、私は別にいいのよ。この子はかわいい娘だもの…いらないなら返してもらうわ…でも…そうね、先にこちらが譲歩してあげるわ」口元に指をあて考えるように目を細めた。
「譲歩?」
「そう譲歩。そうね、私がこれから作り出す世界、その中で私の下で二人一緒に永遠の時を与えてあげる。外敵も望むものはなんでも手に入る…そんな夢の世界の住人にね。」
「ふざけるな。貴様ごとき魔王にそんなことできるわけが」
「できるよ。望みし幻ならね…だけど、それは今の世界を滅ぼすのと同義語だ」古鉄の叫びを俺が遮った。そして俺は迷っていた。世界をとるかこのはちゃんをとるか…そんなたびたび、世界を救うために与えられる二択。それが俺の目の前に横たわっていた。
「さすが、ファルツ様話が早い…でもそうね…素直になれないウィザードには考える時間をあげます。」そういってウィネスは二つの石を俺に向かって放り投げた。
「なに…を…っ」驚きながらつかみ取った俺は手の中にあるものを見て息をのんだ。
「私の居城への転送石と記憶結晶よ…それじゃあ…うーん二時間後ね」そう言ってもう一つの転送石を発動させようとする。その背に向かって俺は言葉を投げかける
「記憶結晶…渡していいのか?これで貴様が暴走する奇跡を手に入れられなくなる可能」
「あなたたちに…できるわけないでしょ?そんな冗談を言ってる暇があったら世界を滅ぼす覚悟でもしなさい。」その言葉とともに消えるウィネスの背に、俺は続きを吐くことができなかった。
そうしてウィネスが完全に消えるのをただ眺めてしまった俺を、再起動させたのは古鉄だった。
「さて…方針を決めましょう。とりあえず隠している情報を互いに明かすことから」その言葉に俺は笑った。
「隠してる情報があるのは君だけだよ…いや…予測していることはあるか。とりあえず、今のこのはちゃんの状況をわかる限り教えてくれ。」それを頼もしく思いながら、俺は軽口を叩いた。
※※※
「まず前提、このはの精神は一部が重なっているが、ふたつある。ひとつが、普段のこのは。もう一つが戦闘時のこのは。そして戦闘時のこのはは、脳とは別の意識で動いている」わたしはこの三年間、このことについて調べ続けていた。
「それは他の強化人間も同じなのか?」地面に真ん中が重なった二つの丸を描きながら答える。
「いいえ…多分このはだけ。他の強化人間でも戦闘時の人格を持つウィザードは少なくない。だけど彼らはそれらの意識を一つの脳で処理しています…だから、彼らは自らの意志で切り替えられる。でも、このはは切り替えのスイッチは押せるけど、戻せない。それは、二つの重なった精神の一つはこのはにとって異物。そんなふうに予測していた。そして実際に、この前やっと手に入れた絶滅社の強化記録からもその可能性が高いことが分かる」
「それで、古鉄が外から叩くことで戻していたのか…でもまて」彼が納得の表情を浮かべ…何かに気づく。
「ただ単に、二重人格という可能性はないのか?」
「はい、私も当初はそう考えていたのですが…記録にはこう書かれていた“彼女には空白の精神がある。まるで外付けハードのようなこの空白に完璧なる兵士の知識・心得をインプットすれば、最強の強化人間ができるのではないか?”と」強化人間は肉体を精神を薬や手術によって改造し、人を越えたモノ…なによりも脳へのダメージは甚大ではなく、多くの強化人間がなにかしらの人間らしさを失う。そして、失ったモノが多ければ多いほど…彼ら、彼女らは見せかけの強さを得る…本当の強さと引き換えに。そのどちらも失わない可能性を研究者たちはこのはに見いだした。
「ですが、先ほどのウィネスの発言で確信しました。その空白は本来、ウィネスがこのはを操るために仕込まれたものです。」
「なるほど、つまり今まで戦闘人格が刻まれていた部分に魔王の意識が上書きされたと言うことなんだね。でもなんで、君の一撃で戻せなかったんだろう?」
「たぶん…」私は地面に描いた円を一度消し、二つの円が接するように描き直す。
「二つの意識が重なった部分が限りなく少なくなってる。だから、わたしの攻撃程度ではこのは本来の精神を揺さぶることは無理…もっと…そう、このはの根源に関わるような刺激を与えないと。」そういって、わたしは悔しさとともにファルツを見つめる。このはの心を占めている憎らしい相手を。
「なんだい?」その視線の意味が分からず不思議そうな表情をファルツは浮かべた。だから、わたしはデリカシーを捨てる。
「早く伝えてあげて。」わたしの言葉に目に見えて反応するファルツ、その様子はなかなかおもしろかった。
「ちょっ、いや、そういうことにはタイミングが」
「今回のタイミングならそれなりにロマンチック、というか今回言わなかったら、わたしはこのはとの交際を認めない。」
「えー、なんでいきなりそっちの話?」
「踏ん切りがつかない男と付き合っても不幸なだけ。このはを愛してるならそれくらいのことはしてほしい。」そう…私にとってこのはは唯一の大事な大事な家族、それはこのはにとっても同じだと思う…だけど、このはの心を奥底から揺さぶることができるのは目の前にいる男だけ。だから、私はファルツに望む。
「つまり…告白しろと?」
「その通り。」
「世界が滅ぶか否かの戦いの中?」
「乙女の夢」
「それでこのはちゃんが“戻る”と言う確証は?」
「皆無。でも愛の力は偉大。」
「…」一瞬の静寂、そして大きく息を吐く音が聞こえた。
「わかった…光源氏になる気はなかったが…でもどうしてわかったんだい?子供を見守る親って感じだったと思うんだが?」マジで言っているのだろうか?あれで気づかないの人はそうそういない。
「するならいい。それで、あなたが予測していることって?」そんなあきれた思いを流し、情報を求める。
「いきなり話が飛ぶな…ああそれは、このはを完璧に取り戻せば、こちらの勝ちだということだよ」
※※※
(…ちゃん、…はちゃん)
闇に沈む私の耳に声が届く。
(どこかで聞いたことがある…)
(このはちゃんってば、早く起きてくれないとママこまっちゃうなー)
「ってママ?いやいやいや、お母さんそんなテンション?って私縮んでる?」ガバッと跳ね起きた私の姿は、幼く…そう世界の真実を知ったあの日の姿になっていた。
「あ、起きた。このはちゃん久しぶり。ママうれしー」
「…あー、なんか思い出してきた。そういえばお母さんこんな感じだった…って、いきなりこの状況はなに?夢?それとも魔王が作った偽物?」今の状況で考えられるのはこの二つしかない。だけど、目の前にいる母親は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ぶっぶー、本物の初音ママだよー。あの日に仕込んだ、私の読みは完璧。あの馬鹿本体にも気付かれないようにするのは超大変だったけどね。」
「どういうことですか?」
「んーと、あの日本体に殺されて取り込まれる寸前に、私自身の魂を月こうのコアにしてあなたの精神に入り込んだの。ギッリギリまで力をなくした上でね。それであの腹黒い本体があなたを利用するために流す力を間借りして、月こうを展開。その月こうであなたが本来持つ精神を包み込んだの。ついでに離れようとする写し見用の精神と重なっている時間を延ばすのにも最適(はーと)」嬉々として説明してくれる母親を見て私はなんだか笑ってしまった。
「ごめんなさい。私の力が足りなかったせいで…辛かったでしょ」
「え?」そう言って見上げた、お母さんの目には涙が溜まっていた…罪の意識…でも、私はお母さんにそんな思いを抱いて欲しくなかった
「…そうだね、お母さんが消えちゃった時は辛かったし、気付いたら4年間位時が跳んでた時も大変だった」私の言葉が進むのに比例するようにお母さんの表情が暗くなる。だから私はその暗さを払うように笑う。
「…それでもね、それを否定したら、世界を救うために努力したことや、ファルツや古鉄や、私の今までの出会いも否定することになる気がするの…だから謝らないでいいよ。それに久しぶりに会ったのにお母さんが泣いてたら寂しいよ」そう言って私は小さくなった手をいっぱいに伸ばして母の目から溢れる涙を拭った。
次の瞬間、私の目の前が真っ暗になった。
「ああ、もう…なんていい子に育ったの…ママさん嬉しくて涙でちゃう…“世界結界”を恨んだこともあったけど…やっぱり感謝すべきなのかしら…この子を私に与えてくれたことを」
「え?」
「なんでもないわ。さてと、いい子にはご褒美をあげないとね。」何かを誤魔化すように私を降ろし、お母さんは笑った。
「ご褒美って…別にそんなの」
「いらないなんて言わないでー。ママの“想い”なんだから…それに絶対に役に立つから」そう言って…お母さんは言葉を紡いだ。
いろいろ、書いてたら設定が生えてくる今日この頃。おかげではないがどんどん大きくなっていく・・・どうしよー
「さて…ファルツ。私達もあがります」
「わかった。俺もあがる…なんだか恋人みた…ぎゃ」その言葉を封殺するように桶を当てておく。
「失恋したばかりのハルカの前で、ここまでバカップルぶりを見せつけるとは…このはは鬼ですね」その様子を呆れたように見ていたリオン・グンタがつぶやいた…言っている意味は理解できなかったが。
「大丈夫!流石に慣れてきた!」苦笑いを浮かべながらも力強く言い切るハルカ…だから、どういうことなのか。
「あるじ様、早くでないとファルツさん待たせちゃいますよ。待たせたら…また恋人みたいだとか言われますよ」古鉄が疑問符を浮かべる私を引っ張る。
「いろいろ突っ込みたいところはあるけど…まぁ…いい。ハルカ…あなたには一応礼を言っておく。ありがとう」私はそれだけ言って、着衣場につながるドアに手をかけた。
「どういたしましてって、私にはお礼言うんだ…そうだ、ベルが言ってなかったことなんだけど」そんな私にハルカはいうか言わないか迷うような、そんな感じ。
「なに?」だから私は逆に気になった…彼女の言葉は真理をつくことを知っていたから。
「いや、そこまで重要な内容じゃないよ。でも…うん言っておこう。ウィネスさんはものすっごく外面はよくて、隠し事なんてないです!みたいな雰囲気を漂わせてるけど…おなかの中は闇すらも飲み込む漆黒だと思う…だから・・・」
「ほんとうの切り札はちゃんと隠している…と」私の言葉にハルカは静かに頷いた。
(切り札…ね)「いやなこと聞いたわ」着替えが終わり外に出てきた私は、そんな事を考えながら男湯の前に立っていた。
なぜなら…
「出てきませんねぇ」ファルツが風呂から出てこないからだ。
「私も詳しくないんだけど…ふつう逆じゃない?」
「そうですね…まぁ普通じゃない=なにかあった、と言うわけでもない気がしますが」
「そう…よね」古鉄の言ってることは正しいのに、なぜか私は不安を覚えていた。
「あるじ様。気になるのなら入ればいいんですよ。男が女湯にきたら、犯罪で滅殺ものですが、女が男湯にきても…犯罪ではありません」前を見据えながら古鉄は言い切る。でも、確かにその通りだ。
「そうね。じゃあ古鉄、武器に」
「なんでいきなり武器モード?」
「いやな予感がするからよ…」そう…私はいやな雰囲気を感じていた…この感じはあの日家の玄関を開けるときに感じていたもの似ていた。
「了解です。」そう言うと私の手には一本の箒が収まった。そうして、静かに扉を開け…同時に聞こえたのはファルツが女性と言い争う声だった。
「魔法の知識もお金いやだなんて…お姉さんの体がいいなんて…」
「そんなこと一言も言ってないぃぃ!」
「あ…ファルツさんが女性に襲われてる」古鉄のつぶやきはもう聞こえていなかった。
「標的確認…超・遠距離射撃…」
「あ、あるじ様?いきなりそれ?というか標的はどっち?」
「…両方」
「え?」間抜けな声を上げる古鉄を無視し、静かに私は引き金を引いた。
※※※
それはいきなりだった…風呂からあがろうとしていた俺の前に現れたのは、タオル一枚を巻きつけただけの一人の女性…いや魔王。
「“魔術狩りの魔王”ウィネス=アクライ…なんのご用でしょうか?」
そう言って俺は睨みつける…だが、ウィネスはにこやかに話しかけてくる。
「魔術師ファルツ・ファードさん。あなたが創りあげた最高の魔法…“暴走する奇跡”を私に教えていただけますか?教えていただけるのなら、対価にあなたが望むモノを与えましょう。なにがいいですか?あなたの知らない魔法?知識?お金?プラーナ?不死の…ああ、あなたは吸血鬼でしたね、じゃああとは…」楽しそうに…ほんとに楽しそうに聞く…だから俺は決別の意志を込めて言い切る。
「あなた様が与えられるモノでほしいものなどありませんよ…まぁ、強いて言うなら…あなたの命…ですかね!」その言葉と同時に俺は衣をまとい、左手から血色の刃を放った。
その刃は湯気を斬り裂き魔王に当たる…だが、その一撃は魔王が巻いていたタオルを切り裂くことで精一杯だった。
(装備が整っていないとはいえ。私の魔法では傷もつけられないかっ)悔しさに歯噛みするが、敵対した以上どうにかしなければいけなかった。
(とりあえずは、このはちゃんが来るまで耐える!)そんな決意をし、身構えた…だが、ウィネスは少し焦ったような表情を浮かべてたたずんでいた。
「そんな…」茫然とした様子でウィネスがつぶやく。
「?」
「そんな、魔法の知識もお金いやだなんて…お姉さんの体がいいなんて…」
「ぶっ!?そんなこと一言も言ってないぃぃ!」俺は叫んだ、心の底から叫んだ!
「え?だって私の命がほしいんでしょ?それに私を裸に剥いたじゃない。」
「攻撃扱いされてないの!?辛い…それすっごくつらい」
「しょうがないわね…あなたがそれを望むのならば」
「いや、望んでないよ。そういう意味じゃないから。」
「恥ずかしいのね…いいわ、お姉さんがリードしてあげる」
「だから、ちが…って横から砲撃が、避けられない」
「え?あら?」
「「大気に満ちし力よ、我が意志の下で魔を弾く盾となせっ」」俺とウィネス、二人がとっさに張った防御魔法は迫りくる魔力光をなんとか弾いた…ってこのプラーナは!?
「なにをしているの…ファルツ」その平坦な声は、俺に一分の喜びと9割9分の恐怖を感じさせた。
※※※
「な…なにをしてるって…魔王に襲われてるんだけど…というか、さっき完全に俺のことも狙ってたよね?もしかしなくても…怒ってる?」ファルツが震えていた声で後ずさっていた。
「怒ってません。ただ、胸がムカムカしてファルツの事を攻撃したいと思っただけです」私は自分でも驚くほど冷たい声を出していた。
「いや…えっと…俺、彼女に興味ないから、俺が好きなのは…「うふふ」何か大事なことを言いかけたファルツを笑い声が邪魔をした。
「そちらの方はなにがおかしいの…」
「だって、このはってばヤキモチをやいてるのだもの…そんな必要ないのに」そこにいたのは、ブラウスに裾が波打つようなフレアースカート…シンプルながら品のよい仕立ての服をまとった女性だった
「どういう意味?それになんで…私の名前を知っているの?」私の中で響く警鐘がまた強くなった気がした。
「まだ思い出さない?」そういって、その女性は私に笑みを向ける…その笑みに私の魂は揺さぶられる。そう…私は彼女を知っている
「このはちゃん。彼女がウィネス・アクライ…あの魔法を狙う魔王だ!」
「つまり…彼女を倒せば、安全に目的地まで行けると言うことですね」そういって私は彼女に古鉄を突きつける…だけど
「あるじ様…なにを動揺してるんですか?」
「え?」古鉄の声で私は自分が震えていることに気づいた。
「あらあら…まだ思い出さないのこのは?わたしは…」
「黙れ!」これ以上ウィネスの言葉を聞いちゃいけない・・・そんな気がし、私はとっさにスイッチを切り替えていた。
『標的確認。発射(ファイア)』放たれた複数の砲撃はすべてウィネスに突き刺さる…だが…
「あなたの母親でしょ」私を狂わせる…その言葉は…“私”の意識を闇に落とした。
おおう・・・先が見えない・・・文章まとめるの下手なのか・・・書きたいネタが多すぎるのか・・・
ミドルフェイズ4 明かされる敵
彼女と出会って、私はまた”人”としての時を刻みだした。そして、私は彼女とともに絶滅社から逃げ出した。
このままここにいたら、また自分を失うとわかっていたから。そして逃げ続けたその先で…私はアンゼロット様に出会った。
「それで…私達は合格ですか?」私は二人の魔王尋ねる。
「え?まぁ合格かしら。うん…合格・合格。」なぜか目をそらす大魔王(ベル)とそれをジト目で見る魔王(ハルカ)…まぁ触れないでおく。
(まぁ…合格ならいいか)私とファルツの中では正直そんな思いの方が強かった。
「こほん。さて、大魔王に二言はないわ。あんたたちのやりたいようにしなさい。あと聞きたいことは何でも聞きなさい」そんななま暖かい視線に気づいたのかベール・ゼファーは咳払いを一つし、いつもの表情…不敵な笑みを浮かべた。
「ふぅ…気持ちいい…」今私たちはなぜか、湯気が立ちこめる温泉に入っていた。
「あるじ様、気持ちいいですね。」古鉄がつぶやき
「えーと、気持ちいいが…微妙に寂しいんだけどな…」ファルツが壁越しにため息をつく。
「「覗いたら、消すから。」」あ、魔王とハモった…って
「どうして温泉に入る必要が?」疑問符を浮かべる私の質問に
「話が長くなりそうだったから。ついでに回復させてあげてるのよ。」
「…ありがとうございます」
確かに、回復は大事だ。それに聞きたいことはたくさんあった。だが、なにより聞きたいこと…それは…
「それでは、基本的なことから聞かせてください。ファルツ…というかファルツが創った魔法を狙っているのは魔王は誰なんですか?」敵の正体、まずそこからだった。
「…ファルツ…あんた言ってなかったの?」あきれたように声をかける、ベール・ゼファーと
「すいません。言う前に襲われてしまいズルズルと。」壁ごしに謝るファルツ。
「あとで、ディストーションブラストね・・・あんたたちを狙っているのは、“魔術狩り”ウィネス=アクライ。古今東西あらゆる魔法を知り、そして新たな魔法を作り続ける魔王よ。」
「魔王ウィネス…まぁ、ソロモンの魔王の一柱のウィネの事だよ。その力は“魔女を見つける事ができる”というもの。まぁ、魔女に限らず“ウィザード”を見つけ出せるみたいだけどね」
「そうして、見つけた“ウィザード”とあの女は取引をする。プラーナを代価に相手がほしがる魔法を与え、自分が知らない魔法を持っているならばどんな代価でも支払い、その魔法を手に入れる…そして、あの女は一つの魔法を作り上げた…」
「それが、世界を書き換える魔法・“望みし幻(ウィッシュ・ビジョン)”」
まるで、一つの物語を読むようにベール・ゼファーとファルツは語る。
「…ちょっと質問があります」その物語を遮るように古鉄が手を挙げた。
「なによ?」
「どうして、そんな危険な魔法をほおっていたのですか?それに、なんだかそのウィネア?という魔王の情報を知りすぎている気がします。」そう…それは私も感じた違和感だった。
「それは、これから説明するところ。まず、ほおっておいた理由は、そんな魔法は机上の空論にすぎなかったからよ。誰にも…忌々しいけど私よりも魔力の高いルーサイファーにすら発動できないレベルの魔法になんの意味があるの?」確かに意味がない。
「加えて説明すると、俺ら魔法技師にとって、世界結界干渉魔法・死者蘇生魔法等の魔法は数学者のフェルマーの定理と同じだ。暇になれば構築しようとする…そして、それがたとえ机上の空論になるとしても、完成させた奴は伝説になれる。俺も何度か創ろうとしたし、今回できてしまった魔法、“奇跡の暴走”も、その一種になる。」ファルツが少し皮肉げにつぶやいた。
「そして、二つ目は…性質的なものかしら?あの女はプラーナを得るため、魔法を得るために魔王や魔術師と関わりを持たなければならないのよ。そしてね…」そこまで言うと声を抑えて笑う。
「魔術師やら魔王なんて輩、どんな時も相手の情報を明かさせるものよ。ましてや、それが世界干渉魔法なんて言うネタなら、コミュニティーの中全員に広がるわ」まるで当たり前なことのように彼女は言った。
温泉に入ってる筈なのに、私は少し寒気がした。
「まぁ、あの魔法は机上の空論としてはおもしろいものだったけど、いざ使えるとなれば話は変わってくるわ。あんなチート魔法はゲームにあっちゃだめだもの」とてもベール・ゼファーらしい理由。だがそれは、そんな魔法がなくてもファージアースというゲームをを攻略できる・・・そんな自信の表れであり、それだけの力があるということだ。だが・・・
「ちょっと待ってください…それじゃあベールゼファー、あなたもその魔法構成を知っているみたいです…」私には口で言ってるだけじゃなく、内容がわかっているからこその発言に聞こえた。
「知ってるわよ。つーか、ファルツもしってると思うわよ」
「「は?」」なんだかとても聞き捨てならない事が聞こえた。どれだけ知っている人がいるのか?知っている人が多いなら、狙ってくる敵も多いということではないか?そんな恐怖を覚える台詞。
「ああ、知ってる。だけど安心してくれ…あれはウィネア以外は覚えることすら無理な代物だよ。ベル様級の魔法容量とともに全属性の魔法を扱えることが前提になっていたからね。まず、ウィザードには無理だ。ベル様、魔王ではどうですか?」そんな私たちを無視し、ベールゼファーとファルツは壁ごしに会話をしていた。
「今現在のところは誰もいないと思うわ。魔力容量として可能性があるのは、あたし・ルー、アニーにパールかしら。だけど、全属性の魔法を扱えるのは誰もいないわ。ルーが完全に復活してたら話は違った可能性はあるけどね。」
話を聞きながら私は呆れていた。机上とは言え、世界を滅ぼす方法を暇つぶしに考え、その内容を周りに明かすと言う魔術師や魔王に。
(魔術師って…)
「魔術師ってはた迷惑ですね」
「うぐ」古鉄が私が思ったことを代弁するようにつぶやいた。
「とまぁ、こちらから渡せる情報はこんなところよ。」そう言って、ベール・ゼファーは立ち上がった。
「ベル?上がるの?」話に参加せず、ベール・ゼファーの横でまったりしていたアゼル・イヴリスが声を出した。
「あんた、慣れてないんだから長時間入ると逆上せるでしょ」そうアゼルの手をつかみ立たせる…こういった場面だけを見ていると彼女たちが人類の敵だという事を忘れそうになる。だから
「礼は言いません。次に遭ったときは容赦なく古鉄の引き金を引きます」私はベール・ゼファーを睨みつけながら言い放った。
「楽しみにしてるわ。勝つのはあたしだけどね。あ、ハルカ?リオンの世話はお願いね」魔王はとても楽しそうに笑い浴場から出ていった。
ミドルフェイズ3紅き世界での試験(ゲーム)
世界の真実を知り、天涯孤独となった私はファルツの家に引き取られることになった。それから三年間は幸せな時だった。ファルツから世界の真実を学び、魔法を学ぶ。成功したときはほめられ、間違ったときは怒られる。そんな当たり前で…幸せな日々。
だけど、ある日を境に私の記憶は消える…あの日古鉄に出逢うその日まで。
パチンっと、ベール・ゼファーが指を鳴らした瞬間世界は紅く染まった。
「ベール・ゼファー…なんのつもりですか?」 私は目の前で笑う魔王をにらみつける。
「なるほど…」 その横でファルツが納得したような声を出していた。
「つまりは…この程度の障害を越えられないのなら…今この場で自分の糧(エサ)となれと」
「そういうこと。勝ったら情報をあげるけど、負けたらあんたの代わりに狙われるリオンを守るために使う力を少しでも回収させてもらうわ。それくらいの覚悟はあるでしょう?」その言葉はぐうの音も言えないほど筋が通っていた。
「なら…はやく始めましょう、ベール・ゼファー。私たちは負けないし、絶対にうまくいかせます。そうくれは様から命令されましたから!!」私は叫ぶ。大魔王の圧力に負けないために…そして、私の想い力にするために。
「そう…なら、それをあたしにわからせなさい!」そう不敵な笑みを浮かべ…彼女はかき消えた。
(え?どういうこと?ベール・ゼファーと戦うんじゃないの?)
その私の混乱は大きな隙を作っていた。
「このはっ。下だ!?」
『グガギャァアー』
咆哮とともに、地面から飛び出してきたのは瘴気を纏った獣…巨大な土竜に似たエミュレイターだった。
完全なる奇襲…私は気づくこともできなかった。だけど、ファルツの言葉を信じ跳んだ一歩が…私の唯一無二の友の名を叫ぶ時間をくれた。
「古鉄っ!」
私の叫びと共に現れる空間の穴。そこから出てきたのは、ここに転送される時に別れたはずの古鉄だった。
「あるじ様によばれてとびでて、変身かんりょー」そして古鉄は、その身を白銀に輝く一本の箒に変え、私の手に収まる。
「ホワイトエクプリス!?魔器だったのか!?」ファルツの驚きを背に受けながら地面跳びだしてきたエミュレイターを見据え…
「撃ち抜け、古鉄。」迫りくる拳に向かって空間を削る銃弾を放つ。力に力をぶつけ威力を相殺させる力任せの技…しかし
(まずい…止めきれないっ)とっさに放った威力では迫り来る拳を押さえ込むことはできなかった。
「大地よ、その大いなる力で痛みを阻む楯とかせ、アースシールド!」
だが、私の前に生まれた岩の壁がその拳を阻んだ。
「ありかと、ファルツ」
「このはちゃん、続けていくよ。降り注ぎし紅き光よ、武器に宿り威光を魅せよ、レイソード!」古鉄の身に周囲を照らす紅き光が収束する。
レイソード、光によって敵を惑わし、魔力によって威力をあげる魔法…そしてファルツの十八番だ。
「うわ、初めて掛けてもらったけど、これすごい」喜ぶ古鉄を感じ、私は一瞬笑い…次の瞬間意識を深い水の中に沈める…敵は消す。
「古鉄…行動開始(アクション)」
「了解です」その言葉通り、私のプラーナを喰らい何十もの魔力の糸が生まれ、エミュレイターに巻き付いた。
「0距離射撃…発射(シュート)」
「射角調整っ」超至近距離での銃撃戦、普通ではあり得ない動きを私の体は無意識にしていた。
そして、長い砲身を糸によって束縛されたエミュレイターに押しつける。
それと同時に、古鉄から伸びた糸、そのいくつかが私の腕に突き刺さった。
「魂の導き糸(ソウルリード)」魔器…それは持ち主の命を吸い力を得る魔性の武器。古鉄もその例に漏れることはない。糸を通じ私の命が古鉄に流れその銃弾の威力が上がる。
『ギャァー』
放たれた、紅き光の奔流は正確に敵を撃ち抜き、それと共に流れていった命が糸を通じて戻ってくる。
だが、それと一緒に感じる手応えはあまり芳しいものではなかった。
「損害率軽微…魔法に耐性あり」
(私の弱点か…)私と古鉄の最大の弱点。それは、放つ力が魔法の力に染まることだ…そして、それは…
「血の紅(レッドブラッド)よ、我が敵を砕け」ファルツから放たれた魔法も同じだ。ファルツの魔法はエミュレイターの皮一枚を焼く程度のダメージしか与えていない。
「俺の攻撃力では通じないか…」
(通じていないわけではない…なら)「シュート」間髪入れずに引き金を引く。だが、縛られたその身を無理矢理動かし、エミュレイターは古鉄の射線から逃れかけていた。
(まずい…避けられるっ)
「このはちゃんの攻撃は避けさせないよ」その言葉と同時にエミュレイターの動きが止まり、光が突き刺さった。
『グギャァー!!』
叫びとともに巨大に膨れ上がった、その爪は私だけでなくファルツをも巻き込もうとしていた。
『自防御確率100%、ファルツ防御確率20%…両防御確率50%…前者を…くぁ』
個人戦闘に調整された人格は冷徹に計算し自分だけを守ろうとする。だけど、私はそれを許すわけにはいかない…”ファルツを守る”その想いだけは果たすと決めた“私”がいたから。
『…後者を選択。敵攻撃を妨害。基点を撃ち抜くっ』
「あるじ様?…うん!」なぜか喜ぶような古鉄の声が聞こえた。
迫り来る攻撃を冷静に見据える…そして攻撃を失敗させる、その一点を探す。そして…
(絶対に守る!)その思いと共に私は引き金を引いた。
※※※
ウィザードが放った銃弾は的確に迫り来る攻撃をはじき返した。
「むぅ。思いのほかあの二人が強いのか…“あれ”が弱かったのか…どう思うリオン?」
ベルは二人のウィザードの戦いを見学しながら傍らで時刻表を読みふけるリオンにたずねる…さっき精神安定のために借りてきたのだ。
「大魔王ベル。本がないのでわかりません。」すごい、時刻表から目も離さずに言った。
「あのねぇ、リオン?あたしの配下になったんなら、攻略本なしでゲームを楽しめるようになりなさい。今回はいい機会でしょうが!」
「それは違います、大魔王ベル。私が楽しんでるのはゲーム自体ではなく、結果を知らず動き回る滑稽な人です。」ようやく顔を上げたと思ったらそんなことを言うリオン…あれ?
「ちょっ待ちなさいよリオン…つまりなに?あたしがゲームを楽しんでるときそんな…『あら、ベルってば滑稽』とか考えてるのかしら?」あ、ベル気づいた。
「大魔王ベール・ゼファー。あなたに対して、そんなこと考えるわけありません」そんな殊勝なことを言うリオンだけど…
「そういうことは、あたしの目を見てい言いなさい」目線は時刻表に向いていた。
「そんな…無理です」
「リーオーンー」いつものようにじゃれあう二人を止めようと私はベルに声をかける。
「ベル…戦いが終わりそう。行かなくていいの?」
「うそ!?もう?」
「うん。一方的に。あの二人、強い。」それは的確な動きをするというだけではない。互いが互いを信じ、自分がやれることを完璧にしていたから…私の目にはまぶしく映る。
「じゃあ、今回のゲームの駒はあれに決めましょう。」そう…私もベルのそんな関係になりたいから。
※※※
『損害90パーセントを突破。最終射撃(ラストショット)』
私の放った光がエミュレイターの核を貫いた。
『グギャァァァァっ。』耳障りな断末魔を上げ巨大土竜は消えた。
『浸魔消滅。敵対存在無し』
冷静に周囲を見渡し、敵がもういないことを確認し・・・
「あるじ様、戻ってきましたか?」頭を抱えてうずくまる私を古鉄がのぞき込む…仕方がないことだが、古鉄の手刀は容赦がない。
「急になにをしてるんだい?」そのやりとりを見ていたファルツが不思議そうに尋ねてくる。
「えと「何でもない…ただのスキンシップ」私は反射的に古鉄の説明を遮っていた。仲間には絶対に説明しなければならない私の壊れている部分…だけどなぜだろう、ファルツには知られたくないと思った。思ってしまった。
「いや…何でもなくないような…」
「何でもない」
自分でも隠せていないことはわかっている。でも、言いたくなかった。
「あるじ様…」しかし、古鉄の寂しげな声に私は気づかされる。教えないという事…それはファルツを危険に曝すということに。だから、私は心に走る痛みを抑え口を開く。
「嘘です。ごめんなさい。ほんとは…」だけど…
「ああ、言いたくないなら言わなくていいよ」遮るように人の決心を無駄にすること言われた…私のこの行くところのない決心はどこに…ああ、本当に空気を読まない人だ。
「…なら言う。」
「言うの!?」驚くファルツを後目に一気に言い切ることにする。
「私に宿ってる戦闘人格は私からは切り替えられるけど、戦闘人格から私には私の意志では戻れません。外部からの衝撃…特に私に近い人から与えられる衝撃でしか戻りません。ちなみに、敵がいなくなったあとの戦闘人格は、周囲すべてを破壊しようとします。だから、古鉄が私の近くにいないときや、機能停止していたら…逃げてください。」
説明が終わり私はファルツから目をそらす…言わなくていいという言葉をはねのけてまで言ったのに、彼が私を危険なものとして見る事になる、そう考えると抑えたはずの心が強く軋んだ。
「そっか、じゃあ古鉄がいないときは俺がどうにかすればいいんだな。」
「え?」その言葉に私はファルツの顔を見た。
「はは、なんで鳩が豆鉄砲くらったような顔をしてるんだ?」ファルツは私の顔を見て笑っていた。
「いや…だって…」
「あれ?もしかして俺はこのはちゃんにとって近しいものじゃない?」
「ちがっ…でも」少し寂しげに言うファルツに私はとっさに否定の言葉を掛けていた。
「なら、ちゃんと起こしてあげるから安心していいよ。昔、朝起こしてたみたいに優しくね。」私の頭をなでながらファルツは軽く言った。
なぜだろう、ありえないほど精神が高揚してるのがわかる。彼といると時々同じような状態になるが、今回はいつも以上だった。
「あはは、あるじ様顔真っ赤。そうですね、じゃあいざというときは頼もうかな…でも朝起こすのはもう私の仕事だからあげません。」
「えー」なぜ、そこで不満そうな声を上げる?
そんな会話をしていた私達だが、ふと気づく…そういえば
(月匣が解かれない…さっきのエミュレータはルーラーじゃない・・・まぁベルが張っているのかな)やっと今の状況を思い出した私に声をかけてきたのは
「あのーそろそろいいですか?さすがに強結界付き月匣を張り続けるの疲れてきたんですが」額に汗を浮かべたハルカと
「というかいい加減にそのバカップルと姉バカな会話をやめなさい」額に青筋をたてたベール・ゼファーだった。