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ミドルフェイズ3紅き世界での試験(ゲーム)
世界の真実を知り、天涯孤独となった私はファルツの家に引き取られることになった。それから三年間は幸せな時だった。ファルツから世界の真実を学び、魔法を学ぶ。成功したときはほめられ、間違ったときは怒られる。そんな当たり前で…幸せな日々。
だけど、ある日を境に私の記憶は消える…あの日古鉄に出逢うその日まで。
パチンっと、ベール・ゼファーが指を鳴らした瞬間世界は紅く染まった。
「ベール・ゼファー…なんのつもりですか?」 私は目の前で笑う魔王をにらみつける。
「なるほど…」 その横でファルツが納得したような声を出していた。
「つまりは…この程度の障害を越えられないのなら…今この場で自分の糧(エサ)となれと」
「そういうこと。勝ったら情報をあげるけど、負けたらあんたの代わりに狙われるリオンを守るために使う力を少しでも回収させてもらうわ。それくらいの覚悟はあるでしょう?」その言葉はぐうの音も言えないほど筋が通っていた。
「なら…はやく始めましょう、ベール・ゼファー。私たちは負けないし、絶対にうまくいかせます。そうくれは様から命令されましたから!!」私は叫ぶ。大魔王の圧力に負けないために…そして、私の想い力にするために。
「そう…なら、それをあたしにわからせなさい!」そう不敵な笑みを浮かべ…彼女はかき消えた。
(え?どういうこと?ベール・ゼファーと戦うんじゃないの?)
その私の混乱は大きな隙を作っていた。
「このはっ。下だ!?」
『グガギャァアー』
咆哮とともに、地面から飛び出してきたのは瘴気を纏った獣…巨大な土竜に似たエミュレイターだった。
完全なる奇襲…私は気づくこともできなかった。だけど、ファルツの言葉を信じ跳んだ一歩が…私の唯一無二の友の名を叫ぶ時間をくれた。
「古鉄っ!」
私の叫びと共に現れる空間の穴。そこから出てきたのは、ここに転送される時に別れたはずの古鉄だった。
「あるじ様によばれてとびでて、変身かんりょー」そして古鉄は、その身を白銀に輝く一本の箒に変え、私の手に収まる。
「ホワイトエクプリス!?魔器だったのか!?」ファルツの驚きを背に受けながら地面跳びだしてきたエミュレイターを見据え…
「撃ち抜け、古鉄。」迫りくる拳に向かって空間を削る銃弾を放つ。力に力をぶつけ威力を相殺させる力任せの技…しかし
(まずい…止めきれないっ)とっさに放った威力では迫り来る拳を押さえ込むことはできなかった。
「大地よ、その大いなる力で痛みを阻む楯とかせ、アースシールド!」
だが、私の前に生まれた岩の壁がその拳を阻んだ。
「ありかと、ファルツ」
「このはちゃん、続けていくよ。降り注ぎし紅き光よ、武器に宿り威光を魅せよ、レイソード!」古鉄の身に周囲を照らす紅き光が収束する。
レイソード、光によって敵を惑わし、魔力によって威力をあげる魔法…そしてファルツの十八番だ。
「うわ、初めて掛けてもらったけど、これすごい」喜ぶ古鉄を感じ、私は一瞬笑い…次の瞬間意識を深い水の中に沈める…敵は消す。
「古鉄…行動開始(アクション)」
「了解です」その言葉通り、私のプラーナを喰らい何十もの魔力の糸が生まれ、エミュレイターに巻き付いた。
「0距離射撃…発射(シュート)」
「射角調整っ」超至近距離での銃撃戦、普通ではあり得ない動きを私の体は無意識にしていた。
そして、長い砲身を糸によって束縛されたエミュレイターに押しつける。
それと同時に、古鉄から伸びた糸、そのいくつかが私の腕に突き刺さった。
「魂の導き糸(ソウルリード)」魔器…それは持ち主の命を吸い力を得る魔性の武器。古鉄もその例に漏れることはない。糸を通じ私の命が古鉄に流れその銃弾の威力が上がる。
『ギャァー』
放たれた、紅き光の奔流は正確に敵を撃ち抜き、それと共に流れていった命が糸を通じて戻ってくる。
だが、それと一緒に感じる手応えはあまり芳しいものではなかった。
「損害率軽微…魔法に耐性あり」
(私の弱点か…)私と古鉄の最大の弱点。それは、放つ力が魔法の力に染まることだ…そして、それは…
「血の紅(レッドブラッド)よ、我が敵を砕け」ファルツから放たれた魔法も同じだ。ファルツの魔法はエミュレイターの皮一枚を焼く程度のダメージしか与えていない。
「俺の攻撃力では通じないか…」
(通じていないわけではない…なら)「シュート」間髪入れずに引き金を引く。だが、縛られたその身を無理矢理動かし、エミュレイターは古鉄の射線から逃れかけていた。
(まずい…避けられるっ)
「このはちゃんの攻撃は避けさせないよ」その言葉と同時にエミュレイターの動きが止まり、光が突き刺さった。
『グギャァー!!』
叫びとともに巨大に膨れ上がった、その爪は私だけでなくファルツをも巻き込もうとしていた。
『自防御確率100%、ファルツ防御確率20%…両防御確率50%…前者を…くぁ』
個人戦闘に調整された人格は冷徹に計算し自分だけを守ろうとする。だけど、私はそれを許すわけにはいかない…”ファルツを守る”その想いだけは果たすと決めた“私”がいたから。
『…後者を選択。敵攻撃を妨害。基点を撃ち抜くっ』
「あるじ様?…うん!」なぜか喜ぶような古鉄の声が聞こえた。
迫り来る攻撃を冷静に見据える…そして攻撃を失敗させる、その一点を探す。そして…
(絶対に守る!)その思いと共に私は引き金を引いた。
※※※
ウィザードが放った銃弾は的確に迫り来る攻撃をはじき返した。
「むぅ。思いのほかあの二人が強いのか…“あれ”が弱かったのか…どう思うリオン?」
ベルは二人のウィザードの戦いを見学しながら傍らで時刻表を読みふけるリオンにたずねる…さっき精神安定のために借りてきたのだ。
「大魔王ベル。本がないのでわかりません。」すごい、時刻表から目も離さずに言った。
「あのねぇ、リオン?あたしの配下になったんなら、攻略本なしでゲームを楽しめるようになりなさい。今回はいい機会でしょうが!」
「それは違います、大魔王ベル。私が楽しんでるのはゲーム自体ではなく、結果を知らず動き回る滑稽な人です。」ようやく顔を上げたと思ったらそんなことを言うリオン…あれ?
「ちょっ待ちなさいよリオン…つまりなに?あたしがゲームを楽しんでるときそんな…『あら、ベルってば滑稽』とか考えてるのかしら?」あ、ベル気づいた。
「大魔王ベール・ゼファー。あなたに対して、そんなこと考えるわけありません」そんな殊勝なことを言うリオンだけど…
「そういうことは、あたしの目を見てい言いなさい」目線は時刻表に向いていた。
「そんな…無理です」
「リーオーンー」いつものようにじゃれあう二人を止めようと私はベルに声をかける。
「ベル…戦いが終わりそう。行かなくていいの?」
「うそ!?もう?」
「うん。一方的に。あの二人、強い。」それは的確な動きをするというだけではない。互いが互いを信じ、自分がやれることを完璧にしていたから…私の目にはまぶしく映る。
「じゃあ、今回のゲームの駒はあれに決めましょう。」そう…私もベルのそんな関係になりたいから。
※※※
『損害90パーセントを突破。最終射撃(ラストショット)』
私の放った光がエミュレイターの核を貫いた。
『グギャァァァァっ。』耳障りな断末魔を上げ巨大土竜は消えた。
『浸魔消滅。敵対存在無し』
冷静に周囲を見渡し、敵がもういないことを確認し・・・
「あるじ様、戻ってきましたか?」頭を抱えてうずくまる私を古鉄がのぞき込む…仕方がないことだが、古鉄の手刀は容赦がない。
「急になにをしてるんだい?」そのやりとりを見ていたファルツが不思議そうに尋ねてくる。
「えと「何でもない…ただのスキンシップ」私は反射的に古鉄の説明を遮っていた。仲間には絶対に説明しなければならない私の壊れている部分…だけどなぜだろう、ファルツには知られたくないと思った。思ってしまった。
「いや…何でもなくないような…」
「何でもない」
自分でも隠せていないことはわかっている。でも、言いたくなかった。
「あるじ様…」しかし、古鉄の寂しげな声に私は気づかされる。教えないという事…それはファルツを危険に曝すということに。だから、私は心に走る痛みを抑え口を開く。
「嘘です。ごめんなさい。ほんとは…」だけど…
「ああ、言いたくないなら言わなくていいよ」遮るように人の決心を無駄にすること言われた…私のこの行くところのない決心はどこに…ああ、本当に空気を読まない人だ。
「…なら言う。」
「言うの!?」驚くファルツを後目に一気に言い切ることにする。
「私に宿ってる戦闘人格は私からは切り替えられるけど、戦闘人格から私には私の意志では戻れません。外部からの衝撃…特に私に近い人から与えられる衝撃でしか戻りません。ちなみに、敵がいなくなったあとの戦闘人格は、周囲すべてを破壊しようとします。だから、古鉄が私の近くにいないときや、機能停止していたら…逃げてください。」
説明が終わり私はファルツから目をそらす…言わなくていいという言葉をはねのけてまで言ったのに、彼が私を危険なものとして見る事になる、そう考えると抑えたはずの心が強く軋んだ。
「そっか、じゃあ古鉄がいないときは俺がどうにかすればいいんだな。」
「え?」その言葉に私はファルツの顔を見た。
「はは、なんで鳩が豆鉄砲くらったような顔をしてるんだ?」ファルツは私の顔を見て笑っていた。
「いや…だって…」
「あれ?もしかして俺はこのはちゃんにとって近しいものじゃない?」
「ちがっ…でも」少し寂しげに言うファルツに私はとっさに否定の言葉を掛けていた。
「なら、ちゃんと起こしてあげるから安心していいよ。昔、朝起こしてたみたいに優しくね。」私の頭をなでながらファルツは軽く言った。
なぜだろう、ありえないほど精神が高揚してるのがわかる。彼といると時々同じような状態になるが、今回はいつも以上だった。
「あはは、あるじ様顔真っ赤。そうですね、じゃあいざというときは頼もうかな…でも朝起こすのはもう私の仕事だからあげません。」
「えー」なぜ、そこで不満そうな声を上げる?
そんな会話をしていた私達だが、ふと気づく…そういえば
(月匣が解かれない…さっきのエミュレータはルーラーじゃない・・・まぁベルが張っているのかな)やっと今の状況を思い出した私に声をかけてきたのは
「あのーそろそろいいですか?さすがに強結界付き月匣を張り続けるの疲れてきたんですが」額に汗を浮かべたハルカと
「というかいい加減にそのバカップルと姉バカな会話をやめなさい」額に青筋をたてたベール・ゼファーだった。