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うむむ・・・そろそろクライマックスなんだが・・・とりあえず、お母さんは自分の趣味!
「うふふ…それでねファルツ様…あなたの望みはなんですか?」そう言って魔王はこのはちゃんの頬にキスをした。
ミドルフェイズ5過去の扉
そして始まる、世界を守護するものとして働く日々…そして、私は彼と再会を果たす。彼は…ファルツは私の事をどう思ってるのだろうか。
「望み…この限定された状況でどの口がほざく」
「あら、私は別にいいのよ。この子はかわいい娘だもの…いらないなら返してもらうわ…でも…そうね、先にこちらが譲歩してあげるわ」口元に指をあて考えるように目を細めた。
「譲歩?」
「そう譲歩。そうね、私がこれから作り出す世界、その中で私の下で二人一緒に永遠の時を与えてあげる。外敵も望むものはなんでも手に入る…そんな夢の世界の住人にね。」
「ふざけるな。貴様ごとき魔王にそんなことできるわけが」
「できるよ。望みし幻ならね…だけど、それは今の世界を滅ぼすのと同義語だ」古鉄の叫びを俺が遮った。そして俺は迷っていた。世界をとるかこのはちゃんをとるか…そんなたびたび、世界を救うために与えられる二択。それが俺の目の前に横たわっていた。
「さすが、ファルツ様話が早い…でもそうね…素直になれないウィザードには考える時間をあげます。」そういってウィネスは二つの石を俺に向かって放り投げた。
「なに…を…っ」驚きながらつかみ取った俺は手の中にあるものを見て息をのんだ。
「私の居城への転送石と記憶結晶よ…それじゃあ…うーん二時間後ね」そう言ってもう一つの転送石を発動させようとする。その背に向かって俺は言葉を投げかける
「記憶結晶…渡していいのか?これで貴様が暴走する奇跡を手に入れられなくなる可能」
「あなたたちに…できるわけないでしょ?そんな冗談を言ってる暇があったら世界を滅ぼす覚悟でもしなさい。」その言葉とともに消えるウィネスの背に、俺は続きを吐くことができなかった。
そうしてウィネスが完全に消えるのをただ眺めてしまった俺を、再起動させたのは古鉄だった。
「さて…方針を決めましょう。とりあえず隠している情報を互いに明かすことから」その言葉に俺は笑った。
「隠してる情報があるのは君だけだよ…いや…予測していることはあるか。とりあえず、今のこのはちゃんの状況をわかる限り教えてくれ。」それを頼もしく思いながら、俺は軽口を叩いた。
※※※
「まず前提、このはの精神は一部が重なっているが、ふたつある。ひとつが、普段のこのは。もう一つが戦闘時のこのは。そして戦闘時のこのはは、脳とは別の意識で動いている」わたしはこの三年間、このことについて調べ続けていた。
「それは他の強化人間も同じなのか?」地面に真ん中が重なった二つの丸を描きながら答える。
「いいえ…多分このはだけ。他の強化人間でも戦闘時の人格を持つウィザードは少なくない。だけど彼らはそれらの意識を一つの脳で処理しています…だから、彼らは自らの意志で切り替えられる。でも、このはは切り替えのスイッチは押せるけど、戻せない。それは、二つの重なった精神の一つはこのはにとって異物。そんなふうに予測していた。そして実際に、この前やっと手に入れた絶滅社の強化記録からもその可能性が高いことが分かる」
「それで、古鉄が外から叩くことで戻していたのか…でもまて」彼が納得の表情を浮かべ…何かに気づく。
「ただ単に、二重人格という可能性はないのか?」
「はい、私も当初はそう考えていたのですが…記録にはこう書かれていた“彼女には空白の精神がある。まるで外付けハードのようなこの空白に完璧なる兵士の知識・心得をインプットすれば、最強の強化人間ができるのではないか?”と」強化人間は肉体を精神を薬や手術によって改造し、人を越えたモノ…なによりも脳へのダメージは甚大ではなく、多くの強化人間がなにかしらの人間らしさを失う。そして、失ったモノが多ければ多いほど…彼ら、彼女らは見せかけの強さを得る…本当の強さと引き換えに。そのどちらも失わない可能性を研究者たちはこのはに見いだした。
「ですが、先ほどのウィネスの発言で確信しました。その空白は本来、ウィネスがこのはを操るために仕込まれたものです。」
「なるほど、つまり今まで戦闘人格が刻まれていた部分に魔王の意識が上書きされたと言うことなんだね。でもなんで、君の一撃で戻せなかったんだろう?」
「たぶん…」私は地面に描いた円を一度消し、二つの円が接するように描き直す。
「二つの意識が重なった部分が限りなく少なくなってる。だから、わたしの攻撃程度ではこのは本来の精神を揺さぶることは無理…もっと…そう、このはの根源に関わるような刺激を与えないと。」そういって、わたしは悔しさとともにファルツを見つめる。このはの心を占めている憎らしい相手を。
「なんだい?」その視線の意味が分からず不思議そうな表情をファルツは浮かべた。だから、わたしはデリカシーを捨てる。
「早く伝えてあげて。」わたしの言葉に目に見えて反応するファルツ、その様子はなかなかおもしろかった。
「ちょっ、いや、そういうことにはタイミングが」
「今回のタイミングならそれなりにロマンチック、というか今回言わなかったら、わたしはこのはとの交際を認めない。」
「えー、なんでいきなりそっちの話?」
「踏ん切りがつかない男と付き合っても不幸なだけ。このはを愛してるならそれくらいのことはしてほしい。」そう…私にとってこのはは唯一の大事な大事な家族、それはこのはにとっても同じだと思う…だけど、このはの心を奥底から揺さぶることができるのは目の前にいる男だけ。だから、私はファルツに望む。
「つまり…告白しろと?」
「その通り。」
「世界が滅ぶか否かの戦いの中?」
「乙女の夢」
「それでこのはちゃんが“戻る”と言う確証は?」
「皆無。でも愛の力は偉大。」
「…」一瞬の静寂、そして大きく息を吐く音が聞こえた。
「わかった…光源氏になる気はなかったが…でもどうしてわかったんだい?子供を見守る親って感じだったと思うんだが?」マジで言っているのだろうか?あれで気づかないの人はそうそういない。
「するならいい。それで、あなたが予測していることって?」そんなあきれた思いを流し、情報を求める。
「いきなり話が飛ぶな…ああそれは、このはを完璧に取り戻せば、こちらの勝ちだということだよ」
※※※
(…ちゃん、…はちゃん)
闇に沈む私の耳に声が届く。
(どこかで聞いたことがある…)
(このはちゃんってば、早く起きてくれないとママこまっちゃうなー)
「ってママ?いやいやいや、お母さんそんなテンション?って私縮んでる?」ガバッと跳ね起きた私の姿は、幼く…そう世界の真実を知ったあの日の姿になっていた。
「あ、起きた。このはちゃん久しぶり。ママうれしー」
「…あー、なんか思い出してきた。そういえばお母さんこんな感じだった…って、いきなりこの状況はなに?夢?それとも魔王が作った偽物?」今の状況で考えられるのはこの二つしかない。だけど、目の前にいる母親は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ぶっぶー、本物の初音ママだよー。あの日に仕込んだ、私の読みは完璧。あの馬鹿本体にも気付かれないようにするのは超大変だったけどね。」
「どういうことですか?」
「んーと、あの日本体に殺されて取り込まれる寸前に、私自身の魂を月こうのコアにしてあなたの精神に入り込んだの。ギッリギリまで力をなくした上でね。それであの腹黒い本体があなたを利用するために流す力を間借りして、月こうを展開。その月こうであなたが本来持つ精神を包み込んだの。ついでに離れようとする写し見用の精神と重なっている時間を延ばすのにも最適(はーと)」嬉々として説明してくれる母親を見て私はなんだか笑ってしまった。
「ごめんなさい。私の力が足りなかったせいで…辛かったでしょ」
「え?」そう言って見上げた、お母さんの目には涙が溜まっていた…罪の意識…でも、私はお母さんにそんな思いを抱いて欲しくなかった
「…そうだね、お母さんが消えちゃった時は辛かったし、気付いたら4年間位時が跳んでた時も大変だった」私の言葉が進むのに比例するようにお母さんの表情が暗くなる。だから私はその暗さを払うように笑う。
「…それでもね、それを否定したら、世界を救うために努力したことや、ファルツや古鉄や、私の今までの出会いも否定することになる気がするの…だから謝らないでいいよ。それに久しぶりに会ったのにお母さんが泣いてたら寂しいよ」そう言って私は小さくなった手をいっぱいに伸ばして母の目から溢れる涙を拭った。
次の瞬間、私の目の前が真っ暗になった。
「ああ、もう…なんていい子に育ったの…ママさん嬉しくて涙でちゃう…“世界結界”を恨んだこともあったけど…やっぱり感謝すべきなのかしら…この子を私に与えてくれたことを」
「え?」
「なんでもないわ。さてと、いい子にはご褒美をあげないとね。」何かを誤魔化すように私を降ろし、お母さんは笑った。
「ご褒美って…別にそんなの」
「いらないなんて言わないでー。ママの“想い”なんだから…それに絶対に役に立つから」そう言って…お母さんは言葉を紡いだ。