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テーマは、石鹸・煙草・ドーナツ型クッション。
ちょっと、いい気になろう小説が停滞しているので掘り返してみた。
この主人公も“このは”だなぁ・・・
太陽が照りつける夏、親友と幼馴染が死んだ。交通事故だった。
死は人に等しく訪れるものだ、まぁ理解していても納得できるほど私はまだ達観していないわけだが。
「それにしたって・・・早過ぎるよ」参列者が火葬場に移動する中、私はその波をさかのぼっていた。それは最後の別れをしたくない、そんな子供っぽい感傷だったのかもしれない。
「このはちゃん、火葬場いかないのかい?」そんな私の背中に向かって声が掛けられた。
「すいません、おじさん。ここに居てもいいですか?」振り向いた先には眼を少し赤くした男性が立っていた。この人は泣いたんだな、とわかりきったことをなんとなく思う。
「そうか・・・わかった」それだけ言って彼は玄関を出ていった。
私はそれを見送ったあと一枚の座布団を持って縁側に出てきた。
外を見ると庭にはキュウリやらナスやら夏野菜が群生している。彼女が趣味でやっていた家庭菜園、もう世話をする人がいなくなっているのに、育ち続ける様はいろんな感情を私に持たせる。
「幸せになって欲しかったんだけどな」親友と幼馴染、どちらも大好きでどちらも大嫌いだった二人。この矛盾した二つの思いが私の目から涙が出ない原因だろうか。
「ここでこんなもの出したら、ものすごい勢いで取られたっけ」なんとなしに、懐から取り出す煙草。親友から教わった悪い遊び。煙草嫌いな彼女の前では吸うことも持っていることも許してもらえなかった。気づけば親友まで止める側になってたっけ、苦笑しながら火をつけようとすると
「煙草は”めっ”ですよ。命を削るだけなんですから」
一瞬幻聴かと思った。「私、やばい?」まで考えた。
「どうしたのですか?このはおばさま」「だれがおばさまだ」その突っ込みとともに手に持っていた煙草の箱をその小柄な少女に投げつける。
「痛いです」不満げな声で彼女はつぶやいた。
「・・・なんで、あなたいるのよ」そこには、彼女達の忘れ形見の少女が立っていた。
「行かなかったからだよ」私の横にドーナツ型なクッションを置き座りながら彼女は軽く言う。
「だから・・・まぁ、私が言えることじゃないか」真っ赤に染まった目を見て私は言葉をとめた。
聞こえるのはセミの音だけになった。
「そういえば、何持ってるの?」コップの中に入った液体とストローを指差しながらたずねた。
「シャボン玉」
「ああ、石鹸水ね」
「石鹸水って・・・おねぇちゃんかわいくないです」ぶすくれた様子で彼女はシャボン玉を飛ばし始めた。だが・・・
「うまくいきません。せめて歌みたいに屋根までは飛ばしたいなぁ」その言葉を聞きふと思い出した。
「シャボン玉の歌か・・・じゃあ屋根じゃダメ」
「え?おねぇちゃん?」私は勢いよく立ち上がり台所に向かい・・・ダッシュで戻る。
「はい、割れにくいシャボン玉液」作ってきたシャボン玉液を彼女に渡した。
「ありがとう、おねえちゃん・・・でもなんで・・・石鹸水とか言う人なのに」
「うるさいわよ・・・屋根程度じゃ悲しいだけだから」不思議そうな視線を感じたが、特に説明はしなかった。
「うわぁ、本当に割れない」虹色に光るシャボン玉、それが庭先にいっぱいに広がった。
「そろそろ火葬が始まった時間かな・・・」火葬場の方角をふと見据えながらつぶやいた。
「・・・どうして、いかないんですか?」
「なんでだろうね」どうしてだろう・・・
「このはお姉ちゃんはお母さんとお父さんに一番近かった人です」
「うんそれは自信ある」なぜ泣けないんだろう・・・
「私なんかよりずっと・・・」
「・・・」そういえばどこかで聞いたことがある・・・
「じゃあ何で・・・」
「・・・泣く事は、辛かった出来事を忘れるための手段なんだって」
「え?」
「だから、泣いたら忘れちゃうでしょ」ああ、そっか。だから最後のお別れに行かなかったんだ、いやいけなかったんだ。もし行ったら泣いちゃってたから。
「ねぇ、このか煙草一本だけ吸わせて・・・たぶんこれが最後だから」
火をつけるとゆらゆらと立ち上る煙、いつも見ているはずのその煙に何か思いを感じるのは何故だろうか。今までならば絶対に吸うことができなかった場所。その場所で吸った煙草はなぜだが目に沁みた。
なぜだか石鹸=シャボン玉=悲しいと煙草=煙=火葬場の連想ゲームをした・・・