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ミドルフェイズ2 逃避行(?)の中での出会い
「…」
「うにゃ」
「がふっ」私が華麗に着地する隣でファルツと古鉄が着地に失敗していた。
閑話休題
「とりあえず、ここはどこ?」二人を起しながら、私は周りを見渡す。すると、そこには複雑怪奇な魔法陣と大量のアイテムが無造作に置かれていた。
しかし、それだけだ。魔法陣がなにか起きているわけでもなく、置かれたアイテムもガラクタにしか見えない。つまるところは、
「倉庫かしらね。しかも使えないものばかり置かれた。とりあえず、早く転移装置のある所へ移動しましょう、せっかくくれは様がくれたチャンス。早く行きましょうか。」
転移先が物置な理由は分からないが、こんなところで時間を食っている場合じゃなかった。
そう・・・あのくれは様の決意。それに背かないためにも。そう思い、私は扉を開こうとし・・・
「だめです、あるじ様!!」
その手を古鉄が掴んだ。
「人が近づいてます…」
古鉄らしからぬ緊迫した雰囲気に、私は出そうになった文句を押し殺した。
(どうする…やり過ごすか…殺るか…)そんな物騒な思案をする私だが、聞こえ始めた足音は確実にこの部屋に近づいていた。
そして、私たちがいる部屋の前で足音は止まった。
その瞬間、私は静かに、脳内のスイッチを切り替える、人ではなく殺戮の道具となるそのスイッチを切り替える…その直前にファルツが肩を叩いた。
「ひゃ」
飛び上がる程驚きながらも、出そうになる声を無理矢理抑える。
「大丈夫、今部屋の前にいるのは味方だ」
そうファルツは扉を開けた。そして私は息をのんだ。
「…ビフォアサービスといったところです。リオンちゃんを守るためのね」
そこに立つのは元同僚であり…今は魔王となったはずのハルカ・リノリウムだったからだ。
「なぜあなたがここに?」
いそいそと扉を閉めながら中に入ってくるハルカを睨みながら私は訊ねる。彼女は許されざる背徳者、どちらかと言えば敵となるべき存在だ。
「話は後です。というか、私もいまいち解ってません。リオンちゃんが危険だから手伝えって、ベルに命令されて来ただけですし。ちなみに、ここが解ったのはリオンちゃんの予言です。というわけで、これが座標です。」
そういってファルツに紙きれを渡すハルカ。
「座標?どこに連れていくつもり?」
「このはちゃん安心して。今回、ベル・リオン・アゼルは味方だから。」
そういいながら、ファルツは私を安心させるように笑いながら頭をなでる。
そんなことされたら…何も言えない。
「後で詳しく説明する。とりあえずここから逃げよう」
「あ…ちなみに転移装置の所覗いてきましたけど、人が一杯でした」
愕然とする情報をもたらすハルカ…だが、ファルツの表情は変わらなかった。
「そんなところ行く必要はないよ」
「は?」
「さすがは、アンゼロット様。というところかな。」
そう言ってファルツがいくつかのガラクタの配置を置き換えた瞬間、巨大な魔法陣が光を放った。
「なっ」「わぁ」「へぇ」三者三様の声を上げる私たちに、ファルツの講義は続く。
「見る人が落ち着いて見れば、緊急の脱出用通路になるようできているわけだ。座標は…ああ、そこの秒まで分かる電子時計か…たぶん探せばいくつか座標も分かるんだろうな」
そんな風にあっさりと出来ていく脱出用テレポーターを間抜けな顔で私は見ていた。
「なにをそんなに驚いてるんだい?」
「いや、なんかあっさり脱出方法が見つかったことに対して…」
どうすれば逃げられるか考えてた私の立場が…どう突撃して、どう占拠するかとか頭悪いこと考えてた戦闘型としての立場は?
「後に取っとけばいいんじゃないですか?」
ボソッと小声で言われた・・・ハルカは心も読むようになったようだ。
「ああ、アンゼロット様のおかげだね。一体どれだけ状況を想定しているのやら」
それに気づかずファルツは手を高速で動かしながら言う。
「そりゃあ、呆れるほどに長い間世界を護ってきた、世界の守護者ですから。魔王の最大の敵はそうでなくては…まぁ、これは自分の行動を裏切ってほしいがゆえの行動な気がしますけど」
近くのガラクタをいじりながらハルカは苦笑していた。
そう、たぶんアンゼロット様はいつも自分を裏切るウィザードの行動を助ける布石も置いていた…いや、犠牲を出さずに世界を救おうとするものへのと言うべきか。
どれだけ犠牲を出そうとも世界を護る世界の守護者…その仮面の下にはとても甘い心がある。
それゆえ、彼女は柊蓮司を気に入っていたのだろう。自分には選べない道を選び、成功させるあの男を。
そんな事を考えていると…
「よしできた…あっ!?…」
笑いながら用意をしていたファルツが声を上げて動きを止めた。
あの声はいやな予感しかしない。なんというか、この前古鉄がプリンを作るときに砂糖と塩を間違えたときとよく似た声だ。
「…聞きたくないけど何?」
「あー、えーと…だれか一人残って、この陣を崩さないと簡単に追われる…自壊式を創るには材料が足りないんだ…」
そういった瞬間、どうしてか空気が固まった。そんなことかと安堵した私と古鉄以外の。
「…わかったわよ…私が残るわよ…そんで、ロンギヌスとかに追いつめられるわよ…そうよっ、貧乏クジ引くのはいつも私よっ」
そしてハルカが勝手に納得した。
「すまない。この場で残れる人は君しか…」
そして申し訳なさそうにファルツが頭を下げている。それを見て、私はふと気づいた。
(…あれ?もしかして…そっか二人ともまだ気づいてないんだ…となると、ここで言わず、ハルカを使うという手もある…魔王にかける情けはないし…けど…)「なにを言ってるんですか?あなた達は…ここに最適なのがいます…ね、古鉄」
私はそう古鉄を前に押し出した。
(ハルカはまだ使える)
そう私の勘が告げていたからだ。
「まかせてください、あるじ様!」
そう彼女はにこやかに笑った。まぁ古鉄が私に逆らうことはありえないことだが。
「…はっ、いやいやいや、軽く言ってるけど危険だ。残った人は逃げ道がないんだよ」
「そうだよ、私なら生き残ることにかけては最強だから。大丈夫だよ?」
二人が一斉に止めてくる。ファルツは解らないでもないが、ハルカが止めてきたのは正直意外だった…心の底から苦労性・・・というか魔王に向かない気がする。
「心配は無用です。というかそろそろ気付いてください。古鉄は…」
「あるじ様、ネタばらしの最中ですがお客様です…さっさと行ってください」
安心させるための説明、それは古鉄の警告の声に遮られた。
「…だそうです。話は後です。ファルツ、ハルカ、行きましょう」
私は二人をつかんで転送陣に入る。
「あ、あ、古鉄ちゃん。無理しちゃだめだよ。その時計の時刻をめちゃくちゃにするだけでいいからね」
「だから、私なら大丈夫ですよ…あなた、それでいいんですか?」
「うるさいですよ、これは誰も欠けないで済む最善の方法です。それじゃあ古鉄…すぐに呼ぶことになると思うわ」
「了解です、あるじ様。」
ひらひらと手を振る私と不安げな二人が魔方陣の中に入ると、魔方陣が蒼く光り輝く。そして、私の視界は光に包まれた。