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とうとうクライマックスー・・・まだ終わらないけどねー
「そんな・・・」
それはどうやっても通じないと言ってることに変わりない。だけど・・・
「大丈夫だよ、このはちゃん・・・それも含めて・・・君を勝利へ連れていく・・・とりあえず君を癒す。」
「なにやってるの!?」
私は悲鳴にも似た叫び声をあげた。
今にも倒れそうなファルツが自身ではなく私にヒールをかけたことに。
「焼け石に水はかけるだけ無駄なんだよ」
長く延びた歯を見せるようにファルツ笑った。
「別れは終わったかしら・・・いい加減その三文芝居を見るのも疲れたわ。まず一回死になさい。」
「させな・・・」
「自分を守れ、このは・・・僕は一度死ねる」
とっさに攻撃を邪魔しようとした私を止めたのはファルツ。 彼の声は痛みを受けること、勝つために覚悟をした声だった。
・・・だから私は、ファルツを護ることをやめる。その考えにいたれる自分の心に嫌気を感じながら。
そして・・・
ー世界に終わりをもたらした星の欠片は
その身を虚無に変え
原初の宇宙をもたらすー
「〝ヴァニティワールド〟」
虚無があたりを包んだ。
※※※
膨れ上がった虚無に包まれ、僕は自分を失いかけていた・・・
(く・・・意識が・・・肉体が分解されていく・・・このはちゃんのためにあの魔法だけは・・・あれ?ぼくはだれだ・・・なにをすればいいんだ?なにか、するとやくそくしたきがする・・・)
失いかけた意識の中を一人の少女の姿が横切る。黒髪の少女の姿が。
(そうだ、このはちゃんのために、道を創るんだ)
僕は一瞬意識を取り戻す。そして、
「いけぇぇ」
放たれたのは5本の闇の鎖。
「・・・死ぬ間際に攻撃?あなた程度の攻撃じゃ無駄よ」
ウィネスは避けようともせず障壁を展開する。だが・・・放ったのは攻撃ではない。5本の鎖は魔王の足下に突き刺さり障壁に絡みついた。
(これでいい・・・)
5本の闇の鎖が確実に巻き付いたことを確認し・・・意識を手放そうとした。
「ファルツ・・・」
だが、耳を揺さぶる泣きそうな彼女の声に僕の意識は無意識に消えることを拒んだ。
※※※
「ファルツ・・・」
「これで一匹。しぶとい虫だったわね、あとはあなた一人よ、このはちゃん」
ウィネスのその言葉は、私の耳には入っていなかった。
「ファルツ・・・私と約束したよね・・・いつまで死んでいるの?」
私の声は震えていた。ファルツを信じている・・・信じている筈だけど、いざ彼を感じられなくなることが、こんなにまでも辛いとは思っていなかったから。でも・・・
「このはちゃん、現実を見つめなくないのは解るけど、あれをまともに受けたら吸血鬼だって蘇・・・え?」
ファルツは私が苦しんでいたらいつだって来てくれた・・・そう・・・
「・・・ごめん、このはちゃん・・・起き損ねる所だった」
優しい笑顔で。
「本当にゴキブリみたいな奴よね、吸血鬼って」
「そうだね。否定はしないよ。」
ファルツが笑っているけど、それが無理をしていることは私も気づいていた。いくら吸血鬼の力で再生したとはいえ、一度プラーナを完全に消す一撃を受けたのだから当たり前だろう。
BKはもう鎧としての役割を放棄し、ファルツが戦場に立つ為の補助器具にすぎない。
だけど、そこに居てくれる。私に笑いかけてくれる。それだけで私はなんの心配もなかった。そんな私に気づいたのだろうか、ウィネスに集まる魔力が増大した。そして、その眼光は殺意に満ちていた。
「でもあなたたち・・・さっきので死んでいた方が良かったと思うわよ・・・」
その言葉は必殺の一撃を放つ宣言だった。
「わかってる・・・絶対に止める」
できるか?ではなく、絶対に止めるという意志・・・だけど、その意志が挫けそうなくらいウィネスから吹き荒れる魔力はまがまがしいものだった。
「この魔法は私にしか使えない魔法・・・虚無に還った世界を・・・あらたに創造する魔法」
世界の元となる虚、世界に光をもたらす天、そして世界に命をもたらす大地と水・・・4つのプラーナが混じりあっていった。
「ごめん、このはちゃん・・・ここまでとは思ってなかった・・・」
ファルツが急に謝ってきた。
「大丈夫・・・貴方を護るためなら・・・私は」
溢れるプレッシャーに私は耐える。
「世界の生け贄になりなさい・・・〝極星創世〝死ねえぇ」
「・・・世界だって撃ち抜いてみせる!」
放たれた〝世界の種〟。それは、私の力のすべてを使っても届かない一撃だった。
(〝望み見る幻〟・・・幻想を本当にする魔法か・・・でも・・・幻想しろ・・・世界を撃ち抜いた私を・・・そしてその幻想の舞台を舞う!)
古鉄から延びたプラーナの糸が〝世界の種〟に巻き付く。
「無駄よ・・・人の力で世界は止められない」
「私だけなら無理かもしれない・・・だったら」
「命中補正・・・ピンポイント」
古鉄の力を借り、迫りくる〝世界の種〟に向かって一点斉射する。
「闇よ絡まれ。」
ファルツの闇が絡みつく。そして・・・
「私はみんなの力を借りる・・・そして、これは〝貴方〟から頂いた力です。」
炎は万物を燃やす力・・・たとえ、それが世界でも。炎は万物の再生の力・・・それは世界だって。
「ガンズオブブレイズ・・・ブレイクシュート!!」
放たれた太陽にも似た輝きは〝世界の種〟を飲み込む、そして・・・
「うそ・・・」
内側に入り込んだ炎は迫り来るを〝世界の種〟を内側から熱し、〝世界の種〟は鳳仙花のようにはぜた。
そして魔力の欠片が私たちを避けるようにまき散らされる。
「あの攻撃を・・・すごい」
ファルツの感嘆を心地よく思いながら、私は魔力水晶を古鉄に送り込む・・・そして宣言する。
「私たちの勝ちです・・・古鉄・・・封印解放」
「了解・・・モード・リーゼ!」
古鉄が魔力水晶に含まれた魔力を喰い、左手のガンズオブブレイズを取り込む。それと同時に古鉄の核である紅い宝石が激しく輝いた。
これが古鉄の切り札・・・外部から魔力を回路に流すことでリミットを破壊し、プラーナドライブを暴走させる諸刃の剣。だけどやるしかなかった・・・目の前の魔王のバリアを貫くためには。
「多少威力が上がったところで・・・私は倒せないわよ」
それは確かに事実だった。体力が少ない魔法系の魔王だとしても、あのバリアがある限り、いくら威力を上げても足りない。だけど、私はその不安から目をそらす。
「そんなの、やってみなければわからない・・・古鉄・・・フルファイア・・・いっけぇぇぇ」
放たれたのは極限にまで圧縮された白炎の弾丸の群。
「すごい威力・・・だけど私の命には足りないみたいね・・・障壁よ」
勝ち誇った笑いとともに展開される4重の障壁。
「くっ」
「安心して、このはちゃん・・・もうあの障壁に意味はない・・・浸食術式・闇乱」
ファルツの言葉通り・・・私が放った攻撃はなんの抵抗もなくウィネスに突き刺さった。
一瞬惚けたような表情を浮かべたウィネスが次の瞬間苦悶の表情に変わった。
「痛い、熱い・・・なんで私の障壁が無力化したの?私の最強の盾はベルにだって解除できないのに・・・」
痛みにのたうち回るウィネスからは先程までの超然とした雰囲気が消えていた。
「さっき僕が死んだときに放った闇の鎖だよ」
「え?」
「あれは防御系術式に対する解析・妨害用魔法。鎖は捕えた者の結界の展開を浸食破壊する・・・まぁ特殊な術式にしか反応できないけどね」
そう笑いながらファルツはイヴリースの右手をウィネスに向かって突きつける。
「やめ・・・やめて」
そこには恐怖に脅えた表情で逃げようとするウィネスの姿があった。
「貴方は強い・・・あらゆる魔法を使いこなせ、魔力は巨大だ。だけど・・・机上の魔術師にすぎない」
ー闇よ 浸食しろー
「あ、ああ」
だが、放たれた闇の鎖はそれを許すことはなかった。音もなくオートで展開される結界に巻き付き浸食する。
「このはちゃん・・・終わりだ」
「うん」
頷き、私を見上げてくるウィネスの胸に古鉄を当てる。
「まって、私を殺さないでくれれば、初音を返すわ・・・だから・・・」
恐怖に歪んだ顔から出てくるのは、私の心に響く提案・・・だけど。
「お母さんに頼まれているんです。その提案は飲むなって・・・だからその提案は飲めません」
そして私は伝える・・・心の中での会話を。
「なんでよ・・・自分が死んででも私に逆らうの?」
「お母さんからの伝言です。『アンタのことは大っ嫌いだけど、私を私として生んでくれたことには感謝してる。だからせめてものお礼に貴方と一緒に死んであげる』だそうです。」
その言葉を聞いたウィネスが一瞬表情を固め・・・苦笑を浮かべた。
「あはは、最後の最後まで・・・感謝の気持ちじゃないでしょう」
別れの言葉とともに放たれた白炎の弾は静かにウィネスの胸を貫いた。
エピローグ
撃ち込まれた白炎が魔王を体内から燃やしていた。
「はは・・・、私の負けか」
寂しげに笑うウィネス。だが、 なぜだろうか、その言葉に恨みは含まれていなかった。
「ファルツと初音お母さんのおかげです」
古鉄を人に戻しながら私は消えゆくウィネスを見つめていた
「やっぱり自分を敵に回すものじゃないわね・・・さて、このはちゃん。」
「なんですか?」
ふと、私はウィネスを嫌っていないことに気づいた。
「〝お母さん〟って呼んで」
冗談めかした魔王らしからぬ願い。だけど・・・
「そう呼ぶのは初音お母さんだけです。」
「それはそうね」
私はその願いを拒む。だって・・・
「あなたはたぶん、おばあ様です」
その言葉に魔王が一瞬固まり、次の瞬間爆笑した。
「え・・・だって初音お母さんがあなたの娘みたいな存在なら、私はあなたにとって孫みたいなものじゃ」
「いや・・・まぁ・・・でも初音さんとウィネスのDNAとかはたぶん一緒なわけだし」
回復を終えたファルツの少しあきれたように近づいてきた。
「そりゃそうよね・・・ふふ・・・あー、おばあ様か・・・こんな見目麗しい女性に対して言う言葉じゃないけど・・・」
消えかかる体を震わせながらウィネスが笑っていた。
「うん・・・じゃあ・・・かわいい孫にはびっくりするいたずらをしてあげないとね。」
「え?」
「・・・驚いてね、このはちゃん」
そう言ってウィネスは笑って消え、それと同時に辺りの記憶結晶が崩壊を始めた。
「え?」
そして世界が歪み、揺れる。
「これは・・・この世界が崩壊する?」
「・・・いたずらってこれかなぁ」
「「いいから逃げる」」
そんな間の抜けた古鉄の問いには答えず私とファルツは転送陣に向かって飛び立った。
崩壊する世界から間一髪で逃れた私たちは温泉街に戻ってきていた・・・転送陣の出口がここだったのだ。
「あら?二人ともお疲れさま」
そんな私たちをベールゼファーが見下ろしていた・・・風呂上がりの牛乳を飲みながら。
「牛乳飲んだって胸は大きくなりません」
「何か言ったかしら、時泉このは?」
つぶやきに目元を痙攣させながら聞き返す大魔王から私は目をそらす。
「まぁ・・・いいわ。今回は誉めてあげる。それと・・・そうね一つだけご褒美をあげる。」
「「ご褒美?」」
ベールゼファーが発するにしては不可解な言葉に、耳を疑う。
「借りは持ちたくないの・・・ん」
そう言うとベールゼファーから流れ出た魔力が一つの形を造っていく。その形は私のよく知っている姿・・・
「ウィネス?」
「違うわ・・・このは、この入れ物に手をあてなさい」
「人形遊びの趣味はないのだけど・・・」
わけも分からず私はその〝人形〝に手を当てる。
その瞬間・・・ただの〝人形〟だったはずの物が紅きプラーナを吹き出した。
「成功ね。」
「なに・・・わぷ」
なにが?とは聞けなかった。私の言葉を遮るように私は抱き締められたからだ。
そして、感じたのは暖かさだった。
「なるほど、ウィネスの〝いたずら〟と言うのはこれか。」
「使われるのは癪だけど、このご褒美が一番いいでしょ。」
「ベールゼファーって時々魔王らしくないよね」
ファルツ達の語らいなんかどうでもよかった。
「お母さん?」
「そうよ・・・あー、あの母親に情けを掛けられたのが悔しいはずなのに、またあなたに会えた喜びが強すぎて、悔しさを感じないわ」
そんな風に私の頭を撫でるのは初音お母さん以外の何者でもなかった。
「あは・・・ほんとにいじわるだ・・・」私の目から溢れだした涙は止まる気配がなかった。